九九を忘れる小学生への効果的な対処法|家庭・学校・特性に合わせた学習サポート

九九を忘れる小学生への効果的な対処法|家庭・学校・特性に合わせた学習サポート

小学生が算数につまずく大きなポイントのひとつが「九九」です。多くの子どもは一度覚えたと思っても、時間がたつと忘れてしまったり、苦手な段で混乱して計算が止まってしまうことがあります。親としては「どうやって復習させたらよいのか」「覚えられないのは発達に問題があるのか」と心配になるものです。

しかし、九九を忘れること自体は珍しくなく、学習方法や理解の仕方を工夫すれば、多くの子どもが再び定着させることができます。この記事では、九九を忘れてしまう小学生への効果的な対処法について、算数教育の専門的視点や発達特性を踏まえながら具体的に解説していきます。

九九を忘れる小学生に多い原因とは

暗記だけに頼った学習の限界

九九は「にいちがに、ににんがし」とリズムで暗記するのが一般的です。確かに効率的に覚えられる方法ですが、ただ暗記しただけでは忘れやすくなります。なぜなら、数の構造やかけ算の意味を理解していないまま、音として覚えているだけだからです。そのため、少し間が空くと答えが出てこなかったり、苦手な段だけぽっかり抜け落ちてしまうことが起こります。

また、暗記中心の学習はワーキングメモリーが弱い子どもにとって特に負担が大きく、頭の中に保持できずにすぐ忘れてしまう傾向があります。九九を忘れにくくするには、暗記と同時に「なぜそうなるのか」を理解する仕組みづくりが不可欠です。

数の概念理解が不十分

九九が身につかない背景には、数の概念理解が十分でないこともあります。本来、かけ算は「同じ数を繰り返し足す」ことを表します。たとえば「2×4」は「2が4つ集まったもの」とイメージできなければなりません。しかし、数直線やブロック操作などの体験を十分にせずに九九を暗記してしまうと、具体的な数量感覚が伴わず、結果的に忘れやすくなります。

九九は「順序数」の理解とも深く結びついています。1から順番に数を並べたり、数直線で増えていく様子をイメージできるようにすることが、九九定着の基礎になります。したがって、九九を忘れる子には「数を数える・並べる」活動を改めて取り入れることも効果的です。

発達特性や個性による影響

ADHDなどの発達特性を持つ子どもは、同じことを繰り返す学習に苦手意識を持ちやすく、集中が続かずに九九を覚えにくい傾向があります。特に「6の段」「7の段」など複雑さが増す段になると一気に苦手感が強まり、学習自体を嫌がることもあります。また、聴覚よりも視覚優位な子どもは、耳で聞いて暗記する方法よりも、表や図を見ながら理解する方法のほうが定着しやすいこともあります。

このように九九を忘れる原因は単純ではなく、「暗記の負担」「数概念の不足」「発達特性の影響」といった複数の要素が重なっているのです。そのため、子どもの特性に合わせた工夫が必要になります。

九九を忘れたときの効果的な思い出し方

加法に戻って考える方法

九九の答えを思い出せないときは、かけ算の本来の意味に立ち返るのが有効です。たとえば「2×6」を忘れてしまった場合、「2を6回足す」と考えてみます。つまり、2+2+2+2+2+2=12 というように加法で確認すれば答えにたどり着けます。この方法は時間がかかるものの、九九の理解を補強し、忘れても立て直す力を養う練習になります。

加法に戻る作業を繰り返すうちに「同じ数をいくつも足す=かけ算」という構造を再認識できるため、暗記だけに頼らず思考で答えを導けるようになります。これが「忘れても大丈夫」という安心感を子どもに与える効果にもつながります。

数直線や図を使った思い出し

九九を忘れやすい子には、数直線やブロックを使った視覚的支援が効果的です。たとえば数直線に等間隔で点を打ちながら数を進めると「4の段は4ごとに進む」という感覚が身につきます。ブロックやおはじきなどを2つずつ、3つずつと並べて数える活動も有効です。こうした視覚的手がかりを利用すると、答えを忘れても「並べて数えればわかる」という安心感を持てます。

視覚優位の子どもにとっては特に有効で、九九表をノートに貼って「忘れたら見ていい」とするだけでも不安が減ります。さらに、九九表をただの答え一覧ではなく「かけ算の規則性」を発見するツールとして活用すると、数学的な見方も育っていきます。

語呂やリズムを使って補強する

九九は音やリズムにのせて覚えやすい特徴があります。たとえば「しちは49」といった語呂を繰り返し唱えることは、短期的に答えを思い出す助けになります。特にADHDなどで集中が続きにくい子どもには、歌やリズム、フラッシュカードを取り入れてテンポよく練習することで、苦手意識が薄れやすくなります。

ただし、語呂や暗唱に頼りすぎると「忘れたらおしまい」という状態になりやすいため、加法や視覚的な方法と組み合わせて使うのが効果的です。複数の手がかりを用意しておくことで、忘れても別のルートで答えにたどり着ける安心感を育てられます。

九九を定着させるための家庭での工夫

日常生活の中で九九を使う

九九を机の上だけの勉強にせず、生活の中で自然に使う機会を増やすことが定着につながります。たとえば買い物の場面で「リンゴを3個買うと2袋でいくつ?」と問いかけたり、料理中に「卵を2個ずつ皿に入れると4皿で何個?」と一緒に考えたりすることで、かけ算が実際の数量感覚と結びつきます。

このように実体験と結びつけることで、ただの数字暗記から「生活に役立つ道具」としての算数に変わり、九九が忘れにくくなります。また、家庭でのやり取りを通じて「失敗してもやり直せる」という安心感を与えられることも大切です。

楽しく繰り返せる仕組みを作る

九九の練習は反復が基本ですが、単調さが苦手な子どもには工夫が必要です。たとえば「九九ビンゴ」「九九カードめくり」「タイムアタック」などゲーム感覚を取り入れると、楽しみながら繰り返せます。ADHD傾向のある子には、合格シールやポイント制を取り入れて、達成感を視覚化する仕組みも有効です。

同じことをただ繰り返すのではなく、遊びの要素や挑戦感を取り入れることで「やってみたい」「もっとやろう」という意欲につながります。子どもの性格や好みに合わせて、練習の形を柔軟に変えていくことが家庭での工夫のポイントです。

忘れても安心できるサポートツールを用意

九九を完全に覚えられるまでは、「忘れても見ればいい」環境を整えることが大切です。九九表を机の横やノートに貼る、ホワイトボードに段ごとに書いておくなど、視覚的にすぐ確認できるツールを用意しましょう。これにより「間違えたらどうしよう」という不安が減り、安心して取り組めます。

九九を忘れたときに参照できるツールを許可することは、子どもの学習意欲を保ち、自力で工夫して答えにたどり着く習慣にもつながります。やがて自然とツールを使わずに答えられるようになれば、それが定着の証拠です。

九九が苦手な子への学校・先生の支援方法

かけ算の意味を丁寧に指導する

学校では「ににんがし」とリズムで九九を暗唱させることが多いですが、これだけでは理解が浅く、忘れやすさにつながります。教師は九九を教える際に、ブロックや絵を使って「ひとつ分がいくつ分集まると全部でいくつになるか」という本質を繰り返し体験させる必要があります。たとえば「2個入りのお皿が3皿ある」と図で示すことで、2×3=6 が自然に理解できるようになります。

九九を忘れたときにも「ひとつ分を足していけばいい」という考え方に戻れるよう、基礎となるかけ算の概念を丁寧に教えることが、学びの支えとなります。

視覚的・体験的教材を取り入れる

九九を苦手とする子には、聴覚的な暗唱よりも視覚的な支援が有効です。九九表や数直線を使い、規則性を発見させたり、実際にカードを並べて答えを導かせたりすることで、数学的な見方が深まります。また、九九を歌やリズムにのせて体を動かしながら覚える活動も効果的で、五感を使った学習が記憶に残りやすくなります。

授業の中にこうした教材を取り入れることで、九九を「忘れてはいけないもの」ではなく「考え直せばわかるもの」として位置づけられ、子どもたちの安心感につながります。

評価や合格の仕組みを工夫する

九九のテストは「全問一発合格」を目指す方式が多いですが、この方法では暗記が苦手な子ほど挫折しやすくなります。そこで、先生は「何度でも挑戦できる」「合格シールを少しずつ集める」など段階的に達成感を得られる仕組みを作るとよいでしょう。これにより、子どもは自分のペースで成功体験を積み重ねることができ、学習意欲を保ちやすくなります。

また、「九九を全部覚えなくても、考え方を知っていれば大丈夫」というメッセージを伝えることも大切です。失敗を恐れずに取り組める環境をつくることが、長期的に算数嫌いを防ぐカギになります。

ADHDや学習特性のある子への配慮

繰り返し学習の負担を減らす工夫

ADHDの子どもにとって、同じことを何度も繰り返す学習は大きなストレスになります。九九も「1の段から9の段まで順に暗記する」というスタイルでは、途中で集中力が途切れやすく「できない」「やりたくない」という気持ちを強めてしまうことがあります。そのため、短時間で区切りをつけたり、日常の行動とセットにして取り組むとよいでしょう。たとえば「朝ごはんの前に2の段」「お風呂の前に5の段」といった習慣化です。

このように生活リズムに九九練習を組み込むと、反復練習が自然なものになり、子どもの負担が軽減されます。結果として記憶の定着もしやすくなるのです。

モチベーションを高める仕掛け

ADHDの子は「できたことが目に見える」仕組みがあると意欲を持続しやすい傾向があります。九九カードやテストに合格するとシールを貼れるようにしたり、3つの箱を使って「毎日」「隔日」「週1回」と段階的に移動させていく方法も効果的です。こうした工夫は「やれば進む」「頑張れば成果が見える」という達成感を与え、モチベーション維持につながります。

さらに、ご褒美を取り入れる場合は「完全に覚えたら終了」というゴールを明確にすることが大切です。九九は一度覚えれば長期的に忘れにくい性質があるため、最初の定着までにモチベーションを支える工夫が特に重要です。

学習環境を整える配慮

ADHDの子は「勉強を始めるまでの切り替え」に苦労することが多いです。そのため、声かけで無理に机に向かわせるのではなく、自然と学習に入れる環境をつくることが必要です。たとえば、九九表をリビングの目につく場所に貼る、ホワイトボードで問題を出して一緒に消していく、タブレット学習を導入してゲーム感覚で挑戦できるようにするなどです。

学習系の習い事やオンライン教材を活用するのも一つの方法です。家庭での支援が難しい場合は、外部のリソースを使って子どもに合った方法を探すことで、九九の定着をサポートできます。大切なのは「無理やりやらせない」こと。本人が楽しんで続けられる環境を整えることが、学習特性を持つ子への最大の配慮といえます。

まとめ:九九を忘れても大丈夫!自分の方法で思い出せる力を育てよう

九九は小学生にとって避けて通れない学習ですが、「覚えたのに忘れてしまう」という悩みを抱える子どもは少なくありません。けれども、それは特別なことではなく、むしろ自然な現象です。大切なのは「忘れたら終わり」ではなく、「忘れても思い出せる方法を持っている」ことです。

この記事で紹介したように、暗記だけに頼るのではなく、加法に戻って考える・数直線やブロックを使う・語呂やリズムで補強するなど、複数の手がかりを組み合わせることで、子どもは安心して九九に取り組めます。家庭では生活の中に九九を取り入れ、楽しく繰り返す仕組みをつくることが効果的です。また、学校や先生は一斉暗唱に偏らず、視覚的教材や段階的評価を導入することで、苦手な子も含めた全員が成功体験を得られるようにすることが重要です。

さらに、ADHDや学習特性のある子どもに対しては、繰り返し学習の負担を軽くし、モチベーションを高める工夫や学習環境の調整が欠かせません。シールやご褒美、デジタル教材の活用など、個性に合わせた方法を柔軟に取り入れることがポイントです。

九九は算数の基礎であり、将来の学習の土台となる力です。だからこそ「できない」と焦るのではなく、「どうやったら楽しく覚えられるか」「忘れても立て直せるか」を一緒に工夫していくことが、子どもの学習意欲を守り、長期的な成長につながります。親も先生も「九九を忘れても大丈夫」という安心感を伝え、子どもが自分の方法で思い出せる力を育てていきましょう。